2019年 10月 1日更新

 

 

 

 

 

 

 

                                                          
                                                          山法師


第 16 章 山 法 師 平成27〜31年作品

新 年

探しものまだ見つからず去年今年 愛犬の声も混りて初電話
一粒の猿捕茨淑気満つ 一本の松葉の先の淑気かな

は る

街路樹の幹に流るる春の音 山桜閉ぢたるままの冠木門
カタカナの名ばかり並ぶ種袋 満天星の揺れの中より風立ちぬ
春の日にかざして見たるたなごころ 点と線結ぶ白地図春の旅
また一つバス路線消ゆ三月尽 日輪に少し近づくしゃぼん玉
野に移したる風信子(ひやしんす)伸びらかに 桜蕊降る花よりもなお大らかに
雨粒を零さぬように花水木  

な つ

今日の無事明日に繋げて夏の蝶 公園に臨時の出口夏の鴨
まっさらな空押し上げて山法師 折り鶴の祈り届けて四葩咲く
梔子の香を弾く風放つ風 主なき庭に実生の瓜の花
風向きのまた変はりけり花蜜柑 陽を返す小花の力百日紅
黒穂抜く童(わらべ)もをりて麦の秋 麦の秋子らは競ひて黒穂抜く
われ死なば母も死ぬなり蛍草 父遠く思はるる日や夏至の月
長考の一手を崩す薮蚊かな 雲の峰背伸びをしても見えぬもの

あ き

好まざる風もあるらし猫じゃらし 新涼や取り出してみる旅鞄
満開となりてさびしき木槿かな 竹林のざわめき止みて萩揺るる
秋暑し習ひ始めのヴァイオリン 目も耳も口も閉ざして秋暑かな
思ひ出の収まり切れぬ露の玉 新米やほどよき母の塩むすび
秋天や若きピエロの泣き笑ひ 紫雲英(げんげ)蒔く休耕田といふ大地
秋の蝶いのちの風を待ちにけり 名刹の松手入れなり三代目
富士聳ゆ釣瓶落しのスクリーン 着地点定まりにけり桐一葉
それぞれの宇宙を巡る紅葉かな  

ふ ゆ

それぞれの軌跡を描く落葉かな 愛犬の歩幅に合わせ落葉踏む
流れたき形もありて冬の水 帰り花ここから先は行き止り
陽が落ちて音色の変はる虎落笛 生きること生きなほすこと冬すみれ
銀色のいのちたくはへ冬木の芽 来し方を重ねて生くる冬木の芽
春隣玄関前に三輪車 尖りたるものまろらかに春隣