2002年10月14日更新

鎮魂の色重ねゆく実むらさき

すっかり秋らしくなりました

地球温暖化が危惧されています。今夏は殆どの人が実感されたのではないでしょうか。
日本だけでなく、アジアや、欧州のエルベ川やドナウ川流域の大規模洪水は記憶に新しいと思います。原因は異常気象だけでなく、農地や山林を舗装することで僅かな雨でも河川の氾濫を起こすことがある…ということの証明と言えるでしょう。地球の悲鳴が聞こえてきそうな夏でした。

地球温暖化へのささやかな抵抗と言えば、格好よいのですが、今夏もエアコンなしで過ごしました。酷暑の中、毎夏恒例の宛名書(毛筆、約6,500枚)の仕事を続けました。1日300枚という目標には及びませんでしたが、8月31日に終了。夏の行が終わったら、一つ年をとっていました。
人工的な環境に慣れてしまうと、元に戻ることが難しくなります。人間は自然の生きものであるということを忘れないように、と思っています。


21世紀最初の年は世界中が衝撃の渦に巻き込まれ、激動の幕開けとなりました。9月11日に起きた同時多発テロ。ニューヨークの世界貿易センタービルが崩壊され、ワシントン郊外の国防総省も炎上。約3000人の犠牲者の出身国は90ヶ国余。
10月7日、アメリカはタリバーン政権とテロ組織に対して報復、アフガニスタンへの空爆を開始しました。日本も「テロ対策特別措置法」を成立させ(2001/10/29)、自衛隊による米軍支援に乗り出しました。
アフガンでは反タリバーン勢力も攻勢、12月7日にはタリバーンの支配が終了し、22日には暫定政権が発足。しかし、テロ組織の壊滅には至らず、行方は未だに?不安を残しての越年となりました。
日本国内でも暗いニュースが続きました。不況は深刻で、失業率5.5%、完全失業者数は350万人を越しました。大手スーパーのマイカル、ゼネコンの青木建設も倒産。
2月、愛媛県漁業実習船「えひめ丸」がハワイ・オワフ島沖で米原潜「グリーンビル」と衝突し、実習生など9人が犠牲になりました。事故処理についての日米の死生観・価値観の相違が大きく、考えさせられました。
6月、大阪では小学生8人が刃物で刺され死亡するという事件がありました。9月、新宿歌舞伎町の雑居ビルで火災。44人が犠牲になりました。また、日本国内でも狂牛病が確認されました。11月、浜岡原発で原子炉管破断事故。
そんな中で明るいニュースも。大リーグ・シアトルマリナーズのイチロー選手の活躍、マラソンの高橋尚子選手の健闘が光りました。10月、野依良治名古屋大学教授が「不斉(ふせい)合成の研究」で、前年の白川英樹筑波大学名誉教授に続いてノーベル化学賞を受賞。
12月1日、皇太子ご夫妻に敬宮愛子(としのみやあいこ)親王ご誕生。1年を締めくくる朗報となりました。

第 13 章

実むらさき

平成13年作品


新 年

かけはしのわづかに揺るる去年今年 新世紀いとやはらかき初明り

は る

引き返す道はそれぞれ春の旅 春の地震思ひがけなきこと多し
ひとひらに意志あるごとし桜散る 自在なる行方もあり桜散る

な つ

推敲や垣を越へたるすひかづら ビル風をはや捕へたり鯉のぼり
泣き声も混じりてプール開きかな 一寸に足らざる油断夏の風邪
夏負けて紙一枚の重さかな 慣れといふ逃げ道もなき暑さかな
天辺の花も横向く立葵 明易し母の寝息を聞きしことも

あ き

コンビニの団子売り切れ雨月かな 鎮魂の色重ねゆく実むらさき
爽やかや手話にてかはすありがとう  

ふ ゆ

聞き分けてをりしりんごの独り言 風止みて聞きしりんごの独り言