2002年 5月11日更新


転居して霞の富士もよかりけり

転居して早1ヶ月が経ちました。
曇りがちの日が多く、見えないと思い込んでいた富士山が姿を見せてくれました。窓を開ければ富士が見える生活が戻り、何故かほっとしています。静岡に暮らしている者の特権かもしれません。
転居当日はNTTのミスで電話不通というアクシデントに遭遇。携帯電話を持たない生活をしていますので、公衆電話を探すために自転車で走り回りました。あって当然のものがない不便さを体験。しかし、よく考えれば、1日2日連絡が取れなくてもどうということはなかったのです。便利に慣れてしまうということは人をせっかちにさせるようです。
季節が猛スピードで動いています。5月に入ってすぐ蛙が鳴き始めました。燕も飛んでいます。人間だけでなく、動物・植物・地球までがせっかちになってきているようです。
今回は「読者のページ」を新設しました。私のホームページにお寄せいただいた作品やご意見を介して、交流の場を育てていきたいと思っています。


平成11年11月11日、母が永眠しました。
2年ほど前から物忘れが進んできてはいましたが、風邪一つ引くこともないほど健康でした。毎日朝な夕な30分の散歩を欠かさず、ご近所に明るさを振りまいていました。当日も夕方の散歩を終え、普段通り夕食をとり、片づけを済ませて自分の部屋に戻りました。兄が7時過ぎに入浴の声をかけてくれたときには既に息がなく、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
日頃から誰にも迷惑をかけたくないと話していましたが、本当に誰にも看取られることもなく、一人で逝ってしまいました。
享年82歳。自分のための楽しみはいつも後回し、最後まで人に尽くし切った一生でした。
私自身、翌年4月には帰省するつもりでした。その準備を始めた矢先のことで、車の免許も間に合いませんでした。つい、昨日のことのようです。

第 11 章

鷺  草

平成11年作品


は る
冴返る星のあはひの変はらざり 近づきて相寄らざりし春の星
春の日にかざして見たるたなごころ またひとつ路線消えゆく三月尽
うららかや大型バスに客ひとり ほんたうは桜守なり朝の月
水音の桜ほろほろ山頭火 ゆで卵きのふもけふも花曇り
淡点のあみかけもやう花の雨 鉢植ゑの葱にも生れし葱坊主
な つ
花みかん母より声の定期便 鷺草やふと立ち止まる午後の風
あ き
虫の声とぎれし不安ありにけり  
ふ ゆ
公園の鳩のあはひに日向ぼこ 鉢植ゑの葱にて足るるくらしかな
善し悪しきつぱりと言ふちゃんちゃんこ 声あらばビルの谷間の冬すみれ
拭ひたる葉の裏表室の花 日脚伸ぶ手渡しされし夕刊紙