2001年 1月 1日更新

頌 春

 

 

2001年

お健やかに新世紀をお迎えのことと存じます
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます


語り口ゆるりと母の葛湯かな

21世紀を迎えました。激動の世紀から自然回帰の時代へと変っていくのでしょうか。それとも、ロボットと進化競争をする時代になるのでしょうか。IT革命はどこまで進んでいくのか、興味あるところです。
ただ、機械を作るのも、使うのも人間です。まず、人々が健康に生き、健全な思考力を持つことができるように、健康な地球を回復することが必要だと思います。
昨年、白川英樹筑波大学名誉教授がノーベル化学賞を受賞されましたが、導電性高分子ポリマーは失敗から生まれた発見でした。今年も、そして今世紀も失敗を重ねながら一歩一歩進んでいきたいと思います。
今回は昭和63年の作品をご紹介いたします。


昭和63年4月、ほぼ10年ぶりに上京。東京時代の上司である栗谷日出子さんをお見舞いに。手術後の経過は順調で、却って励まされてしまいました。
東京の街は人が多くて疲れました。渋谷の日赤病院の桜は白っぽく見えました。翌日は春の雪で、震え上がったことを思い出します。
現在、栗谷さんは昨年再発した腎臓がんと闘っています。強靭な意志と精神力で、ご自分の生き方を淡々と貫いています。ただ、祈るばかりです。

第 4 章

初 花

昭和63年作品


新 年
うす味の暮らしに慣れて切山椒 鉢植ゑの菜を足し七種粥とせり
は る
覚め際の山より霞立ちにけり 席一つゆづりゆづられ春の旅
春愁のきつかけとなる花ことば 東京の初花といふ白さかな
一行にはぐれてすみれ草に逢ふ 伝言版消えぬ一行春寒し
こんなにも小さないのち花の種 花大根用件のみの母の文
夫も子もなき身に木の芽つはりかな うたた寝の夢のあとさき藤の昼
な つ
おとなしき子が見つけたる燕の子 鷺草や食養生など忘れたき
明と暗重なるところ青葉闇 病葉の光の束に呪縛さる
虫干しや母に旧姓ある不思議 本歌取りなる一首あり凌霄花
冷房の死角を探す目に出会ふ 信じたきものの一つに韮の花
箒木や故里の客となりゐたり 失せしもの失せたるままに夏終る
あ き
朝刊のインキの匂ひ秋涼し ふるさとの花野の匂ひ持ち帰る
スケッチのコスモス届く手術後 沙汰なくて健やかなりし鰯雲
ふ ゆ
また一つ見合を躱し冬構 気働きしすぎし夜の葛湯かな
訪ふ人はこばまず母の冬籠り 着ぶくれて何か忘れし心地かな
白息の重なり合ひて死のはなし エレベーター一気に降りて冬の街
一葉忌夜来の風の吹き止まず 鯛焼きの尾つぽより食ぶ聞き上手
山茶花やかつては父を訪ひし道 来てすぐに帰るふるさと冬茜