2000年 8月11日更新


暑いねと母より電話来る時刻

残暑お見舞い申し上げます。
猛烈な暑さが続いていますが、暦の上では秋。朝夕の風に小さな秋を見つけてほっとすることも。鈴虫が鳴き始めました。秋の季題に「新涼」がありますが、ぴったりの季節を迎えます。
母の初盆の法要も済み、寂しさを実感しています。事あるごとに折々のしぐさを思い出しています。家に帰れば、いつでも母の笑顔に会えるような気がします。
今回は昭和61年の作品をご紹介いたします。


昭和61年は俳句を作り始めて2年目の年となります。朝日俳壇(朝日新聞・静岡版)への投句は継続しました。
「香水を変へてためらひ深くせり」の句が初めて巻頭に入選し、巻頭二句目の「誉められもせず枇杷の花満開に」とともに大切な作品となりました。
療養の傍ら、自宅にて手編みニットの仕事を続けていましたが、8年ぶりにアルバイトを始めました。週に一日、二日と慣らしていく毎日でした。社会復帰への第一歩。

第 2 章

花すみれ

昭和61年作品


新 年

息災とまず書き留めて初日記 ちょっと良い話持ち寄り女正月

は る

人に逢ふための装ひシクラメン 花大根素顔のままで人に逢ふ
春風に流るる髪の素直なり 生きるとは祈りにも似て花すみれ
摘み草の野の真中に束ね役 初蝶来ことば探しは明日にせん
ほどほどの程が難し木の芽和 二の腕を見せて物干す初つばめ

な つ

二つ三つ摘みて事足る茗荷の子 朝採りといふ甘藍の重さかな
庭石菖揺れては生るる風の道 青富士の襞の増えたる五月晴
絵はがきを横書きにして聖五月 しつかりと目測をしてメロン切る
掌に掬えば静かなる泉 水打つて石に静脈あるごとし
従順にして筋通す水中花 消ゆるとき風のかたちの遠花火
人の世の折り目正しき薄衣 サングラス美しき嘘すらと出る
絵日傘に気弱を隠すこともあり 香水を変へてためらひ深くせり

あ き

棉の実のはじける前の重さかな 秋の虹人に告げれば消ゆるかも
コスモスの影遊ばせてなまこ壁 舌先にはじめやさしき新生姜
うそ寒き夜のまちがひ電話かな のびのびと皀角子の莢曲がりをり

ふ ゆ

誉められもせず枇杷の花満開に 雑炊のひとりの糧の嘘めきて
大家族生垣にまで蒲団干 冬蝶や話題つしか旅となり