2000年 6月11日更新


相づちを打つ母のゐて日々草

平成11年11月11日に母が永眠しました。

母を送ってから半年が経ちましたが、寂しさは日々募ります。

昭和60年に俳句と出会い、作り続けてきました。

母への思いを込めて、また、自分史と向き合いながら、

「小さな句集」を編んでいきたいと思います。

平成12年6月11日


俳句との出会い

 昭和60年春、朝日俳壇(朝日新聞・静岡版)へ初めて投句した「過ぎ行きてふと気に懸る藪椿」という句が入選し、俳句の勉強を 始めるきっかけとなりました。
 母の実家に藪椿の垣根がありました。子供の頃に訪ねた折の印象が今でも鮮明に残っています。
 慢性腎炎・下垂体機能障害に罹患し、療養を続けながら社会復帰を目指していた時期でした。拙い作品ですが入選句を中心に発表していきたいと思います。


第 1 章

初学の頃

昭和60年作品


は る

過ぎ行きてふと気に懸る藪椿 黒髪の眠るを梳きて春の雨
あの家の沈丁花まで回り道 あたたかき余韻の中に受話器置く
声だけを残して消ゆる猫の恋 食器棚清潔にして夏近し
春うらら猫の欠伸を貰ひけり 雑踏に居て独りなり風車

な つ

買物は蜜柑の花の咲く道を 評判の葛饅頭を母に買ふ
樟若葉中に小さな書道塾 日向水映りし空の揺れもせず
昼寝せる犬の背中の長きこと 今死なば老いを知らずに恋蛍
曝書して青春の日々甦る 熱さめて昨日と違ふ蝉時雨

あ き

新米に添へ鉛筆の母の文 平熱を確かめし朝小鳥来る
便箋の行間にある秋思かな さりげなく菊誉めて行く郵便夫
団欒の遠くに生きて秋桜 美しき時を広げて実むらさき
洗濯の渦にただよふ草の絮  

ふ ゆ

今日よりも明日を信じて冬の蝶 湯豆腐や旅の話は聞くばかり
語り口ゆるりと母の葛湯かな 良きことに出会いし一日毛糸編む
綴り目に母の癖ある蒲団干 彫り深き富士を映して冬の水
掌のぬくもり弾く寒卵 頬打つて木枯らし逃げてゆく如し